2019年6月12日水曜日

成人式の風習  その言い伝え


成人式を迎えるにあたって、クナ族の少女たちは、真っ黒なサブドゥルの木の実の汁(女性の鼻筋に黒い線を引くときに使用しているもの)を、顔から手足まで塗られます。

この風習は、成長した娘に悪霊が憑りつかないようにするためだそうです。



 次に、足にクナ族によく見られる「ウィニ」という、ビーズの飾りを巻きます。

当初、クナ族の女性は、大人も子どももウィニを巻いていたそうですが、巻くのに時間がかかるため、活発な子どもたちは嫌がるようになり、今では大人だけが巻くようになったとされています。

つまりウィニは、成人したクナの女性の象徴となったのです。

ウィニは、巻き上がるにつれ、渦巻き状のきれいな模様が浮かび上がり、これは、植物の「ツタ」を表しているそうです。


クナ族のウィニ1
クナ族のウィニ2


  
クナ族の間で「ツタ」も、悪霊を追い払う力があると信じられ、大切にされています。

また、「ウィニ」の模様は、モラでもよく見かける模様だそうすが、いったい「モラ」ではどんなデザインなのか、いろいろ調べたり、考えたりしました。

ウィニのデザインによく似たモラ
 また、少女たちは、正装準備だけではなく、成人式自体の準備にも時間がかかります。

NHK取材班「世界手芸紀行3」によると、
「女性の儀式では、たくさんの酒代で費用がかさむため、費用の負担を軽減するために、チーチャの祭りと断髪の儀式をまとめて一度に行ったり、何人か同じような年頃の少女がまとめて式を行ったりするなど、様々な工夫を施している」とされています。

膨大な費用と時間を費やす理由は、女性は儀式を経ないと、結婚もできないし、最終的には天国へ行くこともできないと信じられているからだそうです。

そのため、娘を持つ親は、一生懸命お金を貯めて、式を迎えられるように準備を続けます。

準備ができると、親は島の長老に儀式を行いたい旨を伝え、長老自ら采配を振るい、島の多くの人々を動員して酒を造ったり、祈祷師を呼んだりといった具体的な準備を行うのです。

女性だけのクナの成人式は、先祖から受け継がれた神聖で大切な伝統儀式なのです。

2019年5月20日月曜日

チーチャの祭り 世界でも珍しい女性だけの成人式


クナ族の成人式は「チーチャの祭り」と呼ばれます。
少女の成人を祝う祭りが開催されるのです。

「チーチャ」とは、クナ族が造る酒のことです。NHK取材班「世界手芸紀行3」の中に、「男の子だけの成人式は世界各地にあるということですが、「チーチャの祭り」のような女の子の成人式は世界でも珍しいものだといいます。」と述べています。

これは、女性を大切にするというクナ族の習俗の表れであり、母系社会を象徴している祭りでもあるのではないでしょうか。

NHK取材班は、著書の中で、クナ族のヤリッチャちゃんを取材をしています。
日本では、成人式は20歳ですが、ヤリッチャちゃんは13歳です。日本でいうと中学生です。この年齢、つまりクナ族の成人は10代前半ということになるのでしょうか。

著書の中で、サン・ブラス諸島の一つである、ウストゥプ島の有力者の一人、ヘスス・カントーレ氏の興味深い話が紹介されています。

クナ族の女性は、その一生につの大きな通過儀礼があるとされています。

まず、①誕生したときに、鼻に金の輪を通すための穴を開ける儀式を行います。

その後、②「チーチャの祭り」という成人式を迎え、

③髪切りの儀式を経て、少女は大人の女へと成長していくのです。
長い髪をした少女たちは、成人式を迎えるときに、ばっさり短く切ってしまいます。髪を切る行為自体が、大人への第一歩であると考えられているからです。

成人したクナ族の女性は、やがて結婚をし、④結婚式を行います。

最後は死を迎えたときに⑤特別な儀式を行います。

どの儀式も「シャーマン」という祈祷師の手によって盛大に行われるとされています。

これに対し、「クナ族の男性は、一生のうちに何の儀式もなく、ただ、亡くなったときに天国へ無事に着けるよう、祈祷師が祈るだけである。」といいます。

女性の通過儀礼には力を入れるということに対し、男性の通過儀礼は何も行わないという習俗は、非常に珍しいことではないでしょうか。

婿入りだけではなく、女性の服装・儀礼の華やかさが男性よりも勝っていることからも、クナ族は女性社会であることがうかがえます。

クナ女性の成人式での風習は、かなり興味深い習わしや言い伝えがありますが、それは次回にしたいと思います。

  You Tubeで興味深い画像を見つけました。
  クナ族の女性だけの儀式です。
バックに流れているクナ語の歌も珍しいです。

途中、ココナッツの器に茶褐色の飲み物を飲んでいる場面があります。
これがチーチャというお酒です。
ひょっとしたら、「チーチャの祭り」かもしれませんし、違うかもしれません。でも、雰囲気はこんな感じではないでしょうか。


※参照:You Tube 
                   MIS QUERIDAS HERMANAS
                 「EUSTELIO HURTADO」より

2019年5月13日月曜日

クナ族の結婚  興味深い結婚の儀式


サン・ブラス諸島に住むクナ族には、絶対に他民族と結婚してはならないという、純血の掟があります。

クナ族は、純粋民族のまま今日まで血を守ってきた珍しい民族であり、社会秩序のしっかりとした共同体で助け合い、権利、義務とも完全平等の暮らしを営んでいるのです。

また、クナ族は母系制であり、結婚すると、男性が女性の家に入り婿として入ってきます。

そのため、娘の数が多いほど、家族が増え、労働力が増すので、昔から女性は特に大切にされてきており、経済的財産のようにみなされているのです。

NHK世界手芸紀行3」では、「地味な服装の男性たちに比べ、女性たちだけが、金の装飾品やモラで身体を飾り立てていられる理由の1つとして、そうした家族形態の結果なのであろう。」と述べています。

また、家族形態以外に考えられる、女性の社会的な強さとして、

1920年代半ばに行われたパナマ政府や警察による民族同化の弾圧に屈せず、自分たちの生活を保守するために、クナ族の主体性を象徴するモラを着飾り続けてきた女性たちの意志の強さが大きいため。

②かつてはココナッツが主な収入源でしたが、近年では、女性が制作するモラも大事な収入源の1つとなっており、女性が経済の実権を握っているため。

という、2つの理由が考えられます。

 さて、興味深いクナ族の結婚の儀式の様子(といっても、日本の三々九度のような正式な儀式ではなく、友人たちが祝福する結婚の儀式?)をYou Tubeで見つけました。

レポーターが説明をしているのですが、スペイン語なのでよくわかりません。
映像を見てわかったことは、

    友人に担がれた新郎は、頭に水をかけられ、クナ族のベッドになるハンモックに投げ入れられます。そこへ、担がれた新婦も新郎のもとに投げ入れられます。

    同じ行動を3回繰り返すのです。(まるでクナ族版「三々九度」のよう)


なにより島民みんなで二人を祝福している様子が感じられ、皆とても幸せな笑顔がいっぱいです。とても興味深いです。

参照:YouTube 
Casamiento de cultura Guna, desde la Comunidad de Tupile. 
「EL Cayuco PTY」より



2019年4月30日火曜日

クナ族の家~その生活~ 平成最後のブログ

島を取り巻く家々












 クナ族は、島の周囲を取り巻くように家を構えています。

また、下の写真は、サン・ブラス諸島にあるクナ族の家の写真です。
家は、キビの茎を並べて造った壁に、ヤシの葉で葺いた屋根がのっているという、素朴な造りのものです。窓がなく、壁のすき間から日が差す程度なので、家の中は昼間でも薄暗いのです。

しかし、1年を通して暑いパナマですが、日が差し込まず、壁のすき間から風が入ってくるため、一日中涼しいという利点もあります。家の外には、モラやモラブラウスを吊るしていることが多いのです。

家の内部は、居間兼寝室の棟と台所の棟があります。煮炊きをするのに薪やヤシの実の殻を燃やすので、別棟にしないとすすがついて大変なのでしょう。

また、居間にはハンモックがあり、夜になると、そのハンモックで寝ます。つまり、クナ族はハンモックがベッドになるのです。
 
クナ族の家
NHK世界手芸紀3」によると、一軒一軒の家は、どれも非常に大きく、広い空間を持ち、家では一族が一緒に暮らしているのです。
親族による共同生活というのは、クナ族の生活形態の中でも特徴的なものであるといわれています。


参照:クナ族の家 「サンブラス諸島旅行:作業療法/パナマ/青年海外協力隊」

参照:YouTube  Kuna Yala montage「johnmckay71」
サンブラス、クナ族の様子を4分弱にまとめた動画を見つけました。




2019年4月21日日曜日

太陽をまとった人々 ~クナ女性の化粧~


サブドゥルの実
アチョーテの実
クナ族の女性は、サブドゥルとアチョーテという木の実の汁で化粧をします。

もともとは、悪霊が身体に侵入するのを防ぐ、「魔除け」のためにされていた化粧でしたが、現在では、美しく見せるために施しているとされています。

サブドゥルの汁は黒色で、鼻筋の真ん中に黒く細い線を描くのに使います。こうすることで、鼻筋が高く、顔全体がほっそりと見え、美人になるのだそうです。

化粧をした女性


また、アチョーテの汁は赤く、頬紅として使用するのです。
特に「魔除け」という伝統に忠実な年配の女性ほど、頬紅を真っ赤に塗る傾向があります。

そして、全身を華やかに着飾ったクナ族の女性は、その容姿から「太陽をまとった人々」とも呼ばれているのだそうです。


(出典:写真は『NHK世界手芸紀モラ/グアテマラの織物編』より引用)






     


2019年4月11日木曜日

クナ女性の服装


クナ族の社会は女性優位です。
吉田穂高先生は、その著書「季刊民俗学2で「クナ族の女性は自分たちの生活を保守する意志が強く、一家の最年長の女性が商売も家事の一切をもまかなうなど、すべてに権威を持っている。」と述べられています。

確かに、私がパナマで出会ったクナ族は、穏やかでおとなしい男性が多い反面、女性はどの年齢層も明るく元気で、けっこう活力のある人が多いように思いました。
クナ女性のパワーやバイタリティーを強く感じたこともたくさんありました。

さて、そのクナ女性の服装はというと、もちろん、誰もが民族衣装の「モラ」を身に付けています。

しかし、その女性たちをさらによく見ると、頭には赤地に黄色の模様をプリントした布をかぶっているのです。

これは、Musye「ムスウェ」と言われるもので、どのクナ族も皆、赤色の頭巾をかぶり、赤色以外の頭巾はないのです。

また、下半身には、紺系や黒系のプリント地のSapurrete「サプゥレッティ」と呼ばれる腰巻のような布を巻きつけています。柄は緑色や黄色などいろいろな色の様々なデザインが施されています。

NHK世界手芸紀3」には、クナ族の女性の格好を見て、「彼女らの服装は、全部が驚くほど派手な色なのに、それぞれの色がけんかせず、何となく統一されています。たぶん、頭巾と腰巻の赤と紺の二色が、全体を引き締めているのでしょう。」と述べられています。

また、手首と腕、足首とふくらはぎの部分には、Wini「ウィニー」と呼ばれる幅広のビーズの飾りをきつく巻きつけています。

さらに、アクセサリーは、イヤリングとネックレス、そしてArcolla「アルコジャ」と呼ばれる金の鼻輪をしています。

しかし、この鼻輪を付けている女性は、年配の方が多いのですが、今では、鼻輪を付けたクナ族はなかなか見られなくなってきているのです。





2019年4月3日水曜日

4つの地域に住むクナ族



クナ族の種族については様々な説があります。

初期のモラ研究で著名な檜枝茂信先生は、「マヤの流れをくむアメリカ・インディオの一種か、また東洋から流れついた民族か。一説にはアラブ系、メソポタミア系の人種ではないかともいわれている。カリブ海にすみながら、カリビアンとはまったく異なり、どこかしら東洋的な風貌さえもつ謎のインディオである。」とその著書「MOLA モラ・サンブラスの芸術」で述べています。

また、モラ作家の前田佳子先生は、ご自身の著書で、「海沿いに住む南米カリブ部族の子孫であるという説もある一方で、東南アジアからやってきたとする説もあります。日本人よりやや小さく、その顔立ちはモンゴル人種とよく似ています。」と述べています。

さらに、モラ作家の小林早苗先生も、著書の中で、「クナ族の文化は、東南アジアを起源に6000年の歴史があると信じる一部人類学者もいること、クナ族はピグミー族に次いで世界でも番目に小さな人たちで、身体的な特徴はカリブ海の他の種族とは明らかに違う。」という2点を述べています。

これらのことから、クナ族は東洋系の種族であると推測ができます。

実際、クナ族に会ってみると、確かにアジア系の民族に似ていると感じます。
特にクナ女性の中には、日本人にもこんな顔した人いるなあと思える人もいます。
私がクナ族に親しみを感じることができるのも、ひょっとしたら、同じ民族としてのつながりがあると無意識のうちに感じているからかもしれません。

 それから、小林先生は、クナ族には4つのグループがあると述べられています。

下の図は、クナ族が住む地域を表した図を表したものです。
その4つのグループは次の箇所に住み分けられます。

①サン・ブラス諸島に住むクナ族
②ダリエンのジャングルに住むクナ族
③バヤノ川(パナマ湾に流れ込む)地区に住むクナ族
④コロンビアに住むクナ族
 クナ族の住む地域として代表的なのは、サン・ブラス諸島である。




出典:「クナヤラ諸島」をもとに加筆(パナマ・コロンビアに住むクナ族)